ある三十代の男性患者さんの事例を紹介します。彼は数ヶ月前から、強いイライラ感や不眠、急なパニックに似た症状に悩まされていました。仕事の会議中に突然激しい動悸に襲われたり、些細なことで怒りが抑えられなくなったりすることが増え、自分は精神的に追い詰められているのではないかと考えた彼は、まず心療内科を受診しました。そこでは適応障害や不安障害の疑いとして抗不安薬などが処方されましたが、一向に症状は改善しませんでした。それどころか、手の震えがひどくなり、体重が半年で十キロも減少するという異常な状態に陥りました。精神的な疲れで痩せているのだと本人は思っていましたが、ある日、鏡で自分の目が少し大きく見開いているような違和感を覚え、ようやく「これは心の病気だけではないかもしれない」と疑い、別の病院の内科を訪れました。そこで行われた血液検査の結果、甲状腺ホルモンが通常の数倍という極めて高い値を示し、バセドウ病であることが判明したのです。即座に内分泌内科へ紹介され、専門的な治療が開始されました。この症例は、バセドウ病がいかに精神疾患と間違われやすいかを如実に物語っています。甲状腺ホルモンは脳の興奮にも深く関わっているため、過剰になると攻撃的になったり、不安感が強まったり、情緒不安定になったりといった精神症状が前面に出ることが少なくありません。バセドウ病は何科を受診すべきかという判断において、このように「心と体の両方に症状が出ているとき」こそ、甲状腺の異常を疑うべきなのです。この患者さんの場合、内分泌内科での適切な薬物療法によってホルモン値が安定すると、あんなに苦しんでいたイライラや不安感は嘘のように消え去りました。彼は後に、「自分の性格が変わってしまったのかと思って絶望していましたが、病気のせいだと分かって本当に救われました」と語っています。私たちは、心の不調を感じたときでも、その背後に内分泌系の異常、特にバセドウ病が隠れていないかを常に念頭に置く必要があります。バセドウ病は何科かという問いに対して、もし身体的な徴候、例えば脈拍の速さや体重減少、手の震えを伴うのであれば、まずは内分泌内科でのホルモン検査を優先すべきです。心と体は表裏一体であり、ホルモンバランスという物理的な要因を整えることで、精神的な平穏を取り戻せるケースは決して少なくありません。正しい診療科へのアクセスが、一人の男性の人生を救った象徴的な事例と言えるでしょう。