睡眠時無呼吸症候群の専門医として日々多くの患者さんを診察している中で、世間一般に知られている「いびき」や「眠気」以外にも、見逃されがちな自覚症状が数多く存在することを痛感します。例えば、朝起きた時の「口の渇き」や「喉のヒリヒリとした痛み」です。無呼吸状態にある人は、鼻呼吸ができずに口呼吸になっていることが多く、一晩中空気が喉を直撃するため、粘膜が乾燥し、炎症を起こしやすくなります。また、意外かもしれませんが「逆流性食道炎」のような胸焼けを訴える患者さんも多いです。呼吸が止まった状態で一生懸命息を吸おうとすると、胸腔内が強い陰圧になり、胃酸を食道へと吸い上げてしまうためです。慢性的になかなか治らない胃の不快感が、実は睡眠中の呼吸トラブルに起因しているケースは少なくありません。精神的な面では、「集中力が続かない」「些細なことでイライラする」「気分がひどく落ち込む」といった症状を、単なるストレスや更年期のせいだと思い込んでいる方が非常に多いです。脳が酸素不足になれば、感情のコントロールを司る前頭葉の機能が低下するのは当然の帰結です。さらに、寝相が異常に悪い、寝汗をびっしょりかく、といった現象も、体が窒息の苦しみから逃れようともがいている証拠です。診察の際、私は患者さん本人だけでなく、可能であればご家族からも話を伺うようにしています。本人は「よく眠れている」と思っていても、ご家族からは「一晩中格闘しているように見える」と言われることが多々あるからです。特に、痩せ型の女性や顎が小さい日本人の骨格では、激しいいびきをかかなくても呼吸が浅くなっている場合があり、診断が遅れがちです。もし、あなたがしっかりと寝ているはずなのに午前中から頭がぼーっとする、あるいは朝の目覚めがいつも最悪だという感覚があるなら、それは睡眠の「長さ」ではなく「質」、すなわち呼吸に問題がある可能性があります。睡眠時無呼吸症候群は、全身の健康を蝕む土台となる病気です。いびきという分かりやすいサインだけでなく、こうした微細な体の変化に目を向けることが、早期発見と健やかな生活への第一歩となるのです。