皮膚科の診察室で多くの患者さんと接していると、脇汗の悩みがいかに深く、そして一人ひとりの人生に影響を及ぼしているかを痛感します。多くの患者さんは「どれくらいの汗が出たら病院に行っていいのか」という、いわば受診の基準を求めて来院されます。医学的な立場から申し上げますと、脇汗の多さを測る基準は、単なる「滴る汗のミリリットル数」ではありません。むしろ、その汗が患者さんのQOL(生活の質)をどの程度損なっているかという「社会的な機能障害」の度合いこそが、真の基準となります。例えば、ある患者さんは物理的な汗の量はそれほど多くなくても、接客業という職業柄、微かなシミが気になってパニック障害に近い状態に陥っていました。一方で、大量の汗をかきながらも、それが生活の支障になっていない方は、医学的な治療の優先順位は低くなります。多汗症の診断において最も重要なのは、本人が「この汗のせいで本来の自分が出せない」と感じているかどうかです。また、診察では汗の量だけでなく、その「出方」にも注目します。脇汗が左右非対称であったり、睡眠中にも大量の汗をかいていたり、最近になって急に発汗量が増えたりした場合は、背後に甲状腺機能亢進症や糖尿病、あるいは自律神経の重大な疾患が隠れている二次性多汗症の可能性があります。この場合、脇汗は単なる体質ではなく、内臓からのSOSとしての基準になります。私たちは、ヨード・デンプン反応を用いたテストで汗の広がりを視覚化することもありますが、これはあくまで治療の効果を測定するためのものであり、診断の決定打はあくまで患者さんの主観的な困りごとです。最近は、優れた外用薬(塗り薬)が登場しており、以前のように「手術しか道がない」という時代ではありません。基準を超えているかどうかを一人で悩むよりも、まずは現在の生活状況を正直に話していただくことが、解決への最短ルートになります。脇汗を抑えることは、単に見た目を整えるだけでなく、失われていた自信を取り戻し、対人関係を円滑にするという、精神科的なケアに近い側面も持っています。医学は常に進化しており、汗の基準に振り回されるのではなく、汗をコントロールして自分の人生を謳歌するためのツールとして医療を活用してほしいと願っています。