眼科医として日々多くの患者さんを診察している中で、夏場に最も多く受ける質問の一つが「ものもらいがありますが、プールに入っても大丈夫ですか」というものです。この問いに対して、私たちは医学的な根拠に基づいた明確なガイドラインを持って回答しています。まず、ものもらいとプールの「相性」を考える上で、最も誤解されているのが感染性の問題です。ものもらい、すなわち麦粒腫や霰粒腫は、まぶたの分泌腺における細菌感染や内容物の停滞が原因であり、ウイルス性の流行性結膜炎とは異なり、プールで他人にうつることはありません。しかし、それでも私たちがプールの自粛を勧めるのは、患者さん自身の治癒プロセスを阻害する要因がプールには多すぎるからです。一つ目の要因は塩素刺激です。プールの消毒に用いられる塩素は、角膜や結膜の表面を保護している涙の層を破壊します。炎症を起こしているまぶたにとって、このバリア機能の低下は致命的であり、回復を遅らせる大きな原因となります。二つ目は水圧と運動負荷です。水中での激しい動きや潜水は、頭部の血圧を上昇させ、まぶたの腫れを増長させる可能性があります。特に炎症が強い時期の運動は、痛みを増幅させることが臨床的にも証明されています。三つ目は二次感染のリスクです。プールの水は循環濾過されているとはいえ、多数の人間が利用する環境下では、黄色ブドウ球菌などの常在菌が常に一定数存在します。ものもらいで組織が弱っている場所は、新たな細菌にとって絶好の侵入経路となります。では、どの程度の症状なら入っても良いのか。目安としては、まぶたの赤みが完全に消え、触れた時の痛みがなくなっている状態であれば、ゴーグルを適切に使用した上での遊泳は許可できることが多いです。しかし、まぶたを裏返した時に膿が見えていたり、瞬きだけで違和感があったりする時期は、プールはお休みすべきです。点眼薬を使用している期間も注意が必要です。点眼直後にプールに入ると、薬が水に流されて効果がなくなるだけでなく、薬の成分が水中の塩素と反応して刺激物となる可能性も否定できません。もしプールに入る許可が出た場合でも、点眼は泳ぎ終わった後、しっかりと真水で目を洗った後に行うように指導しています。また、ゴーグルの使用を強く推奨しますが、長時間着け続けるとゴーグル内部の温度と湿度が上昇し、細菌が繁殖しやすいサウナのような環境を作ってしまうため、こまめに外して目を休めることも大切です。ものもらいは早期に適切な休息と治療を行えば数日で完治する病気です。医師の立場からは、目の健康を第一に考え、完全に治してから最高のコンディションでプールを楽しんでいただきたいと願っています。
専門医が解説するものもらいとプールの相性