私は病院の当直医や管理者として、長年「検食」という業務に携わってきました。医師の仕事は診察や手術だけだと思われがちですが、実は患者さんが毎日召し上がる食事の最終確認を行うことも、私たちに課せられた重要な任務の一つなのです。午前十一時を過ぎる頃、栄養科から私の元へ一食分のトレイが運ばれてきます。これが検食の始まりです。患者さんがお昼ご飯を食べる三十分ほど前に、私たちはその日のメニューをすべて実際に食べ、内容に不備がないかを確認します。正直なところ、忙しい診療の合間に食事を摂るのは大変な時もありますが、このトレイを前にした瞬間、私は一人の医師として、そして一人の人間としての責任の重さを感じます。まず、箸をつける前に全体を俯瞰します。献立表通りの品数が揃っているか、異物が入っていないか、盛り付けが乱れていないかを確認します。次に、実際に口に運んで味を確認します。病院食は塩分が控えめに設定されていますが、その制限された中でいかに出汁を効かせ、食材の旨味を引き出しているかを評価します。私が特に注視するのは、高齢の患者さんや嚥下機能が低下した患者さん向けの「刻み食」や「ムース食」の状態です。食材が十分に柔らかくなっているか、飲み込みやすい粘度になっているか、そして何より「美味しそうに見えるか」を確かめます。食事は治療であると同時に、入院生活における数少ない楽しみの一つです。その楽しみが損なわれていないかを確認することも、検食の大切な目的だと私は考えています。時折、魚の骨が残っていたり、野菜の繊維が硬すぎたりすることもあります。そのような時は、即座に栄養科へ連絡し、配膳の停止や注意喚起を行います。実際に検食をしていると、季節の移ろいを感じることもあります。行事食として出される赤飯や、七夕の時のそうめんなど、調理スタッフが工夫を凝らした一皿に出会うと、患者さんの笑顔が目に浮かび、心が温まります。検食が終わると、専用の記録簿に詳細な感想と評価を記入します。良かった点だけでなく、改善すべき点も忌憚なく書くことが、給食の質を向上させるためには不可欠です。私たちが毎日行っているこの検食という作業は、表舞台に出ることはほとんどありません。しかし、患者さんの安全を裏側で支え、早期退院に向けた体作りを支援するための、欠かすことのできない「医療行為」の一部であると自負しています。今日もまた、検食のトレイが運ばれてくる音を聞きながら、私は患者さんの健康を第一に願い、真剣に箸を手に取るのです。
医師が語る検食という毎日の大切な任務の舞台裏