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目のかゆみと充血は眼科が専門です
花粉が飛散する季節になると、目を取り出して丸洗いしたくなるほどの、耐え難いかゆみと充血に悩まされる。コンタクトレンズはゴロゴロして入れていられない。そんな、目の症状が特に辛い花粉症の場合、頼るべきは眼の専門家、眼科医です。花粉によって引き起こされる目のアレルギー症状は、「アレルギー性結膜炎」と呼ばれ、眼科がその診断と治療の専門となります。多くの人が、市販の目薬で何とかしのいでいるかもしれませんが、眼科を受診することには、それを上回る大きなメリットがあります。まず、正確な診断が受けられることです。目のかゆみや充血の原因は、アレルギーだけとは限りません。細菌やウイルスによる結膜炎や、ドライアイ、あるいは他の眼の病気が隠れている可能性もあります。自己判断で市販の目薬を使い続けることで、かえって症状を悪化させたり、本来必要な治療の開始が遅れたりするリスクがあるのです。眼科では、細隙灯顕微鏡という専門的な器具で目の表面を詳細に観察し、アレルギーによるものなのか、他の原因はないのかを的確に診断してくれます。そして、診断に基づいて、あなたの症状に最も合った、効果的な点眼薬を処方してもらえるのが最大の利点です。処方される点眼薬には、かゆみの原因となるヒスタミンの働きをブロックする「抗ヒスタミン薬」、アレルギー反応そのものを抑える「抗アレルギー薬(メディエーター遊離抑制薬)」、そして炎症が非常に強い場合には「ステロイド点眼薬」など、様々な種類があります。市販薬に比べて成分の濃度が高く、効果が期待できるだけでなく、防腐剤の入っていない、目に優しいタイプの薬を処方してもらうことも可能です。特に、コンタクトレンズを使用している人は、レンズとの相性や、点眼のタイミングなど、専門的な指導を受けることが目の健康を守る上で不可欠です。目のかゆみを我慢して擦ってしまうと、結膜や角膜を傷つける原因にもなります。辛い目の症状は、眼科医に相談し、適切な治療で快適な春を迎えましょう。
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女性に多い膝の痛み、ホルモンとの意外な関係
膝の痛みを訴える患者さんの割合は、男性よりも女性の方が高いことが知られています。特に、中高年以降になるとその差は顕著になります。その背景には、筋力量や骨格の違いといった身体的な特徴に加え、女性特有の「ホルモンバランスの変化」が、膝の健康に深く関わっていると考えられています。女性のライフステージにおいて、膝の痛みが現れやすいタイミングは、主に二つあります。一つは「妊娠・出産期」、そしてもう一つが「更年期」です。妊娠中は、お腹が大きくなるにつれて体重が増加し、膝への負担が単純に増えます。また、出産に備えて、リラキシンというホルモンが分泌され、骨盤周りの靭帯が緩みますが、この影響は全身の関節にも及び、膝関節の安定性が低下しやすくなります。産後も、赤ちゃんの抱っこなどで膝に負担がかかり続けるため、痛みを訴える女性は少なくありません。そして、より深刻な影響を及ぼすのが「更年期」です。閉経を迎える五十歳前後になると、女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌が急激に減少します。エストロゲンには、骨を丈夫に保つ(骨粗鬆症を防ぐ)働きや、関節の軟骨の健康を維持する働き、さらには炎症を抑える働きなど、関節を守るための様々な重要な役割があります。この「守り神」とも言えるエストロゲンが減少することで、女性の膝は一気に脆く、そして傷つきやすくなるのです。軟骨のすり減りが進行しやすくなり、「変形性膝関節症」の発症リスクが高まります。また、関節リウマチも、三十代から五十代の女性に発症しやすい自己免疫疾患であり、更年期に関節の痛みやこわばりとして現れることがあります。このように、女性の膝の痛みは、単なる加齢や使いすぎだけでなく、ホルモンの波に大きく左右されています。もし、あなたが更年期世代で、原因不明の膝の痛みや朝のこわばりに悩んでいるのであれば、それは「年のせい」と片付けず、一度、整形外科を受診することをお勧めします。また、必要に応じて、ホルモン補充療法なども行っている「婦人科」と連携して治療を進めることも、有効な選択肢の一つとなるでしょう。
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薬に頼る前に、自分でできる自律神経の整え方
自律神経失調症の治療において、医療機関での専門的な治療は非常に重要ですが、それと同時に、日々の生活の中で自分自身でできる「セルフケア」を実践することが、症状の改善と再発予防に大きな効果をもたらします。薬だけに頼るのではなく、自分の生活習慣を見直し、自律神経が喜ぶことを毎日の暮らしに取り入れてみましょう。まず、基本中の基本となるのが「生活リズムの見直し」です。私たちの体には、約二十四時間周期の体内時計が備わっており、自律神経もこのリズムに沿って働いています。このリズムを整える最も効果的な方法が、「朝日を浴びること」です。朝、起きたらカーテンを開け、太陽の光を数分間浴びましょう。これにより、体内時計がリセットされ、活動モードの交感神経へのスイッチがスムーズに入ります。また、夜は、就寝一時間前からスマートフォンの光を避け、部屋の照明を少し暗くして、リラックスモードの副交感神経が優位になるように導いてあげましょう。毎日、同じ時間に寝て、同じ時間に起きることを心がけるだけでも、自律神経は安定しやすくなります。次に、「食事」です。一日三食、バランス良く食べることが基本です。特に、幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」の材料となる「トリプトファン」を多く含む、大豆製品(豆腐、納豆、味噌)、乳製品(チーズ、ヨーグルト)、バナナなどを意識して摂ると良いでしょう。また、腸内環境と自律神経は密接に関係しているため(腸脳相関)、発酵食品や食物繊維を多く摂る「腸活」も効果的です。そして、「適度な運動」も欠かせません。ウォーキングやジョギング、ヨガといった、一定のリズムを繰り返す有酸素運動は、セロトニンの分泌を促し、自律神経のバランスを整えるのに最適です。激しい運動は必要ありません。「少し汗ばむ程度」の心地よい運動を、週に数回、継続することが大切です。最後に、いつでもどこでもできる簡単なセルフケアが「深呼吸(腹式呼吸)」です。ゆっくりと鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口から時間をかけて息を吐ききる。これを数回繰り返すだけで、高ぶった交感神経を鎮め、副交感神経を優位にすることができます。これらの小さな習慣の積み重ねが、乱れた自律神経を整え、あなた自身の「治る力」を引き出してくれるのです。
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熱はないのに喉が赤い、子供の場合に考えられること
お子さんの口の中をのぞいて、喉が真っ赤になっているのを見つけると、親としては「熱が出るのではないか」と心配になりますよね。しかし、子供の場合、熱はないのに喉だけが赤い、という状況は非常によく見られます。その多くは、大きな心配のいらないものですが、中には注意が必要な病気のサインである可能性もあります。子供の喉が赤くなる最も一般的な原因は、大人と同じく「ウイルス感染の初期段階」です。子供は、保育園や幼稚園、学校といった集団生活の中で、常に様々なウイルスにさらされています。風邪のひき始めとして、まず喉の粘膜でウイルスと免疫細胞の戦いが始まり、その結果として赤みが生じるのです。この段階で、しっかり休養をとらせることで、本格的な発熱に至らずに回復することも少なくありません。また、子供は鼻の構造が未熟なため、鼻水が喉に流れ落ちる「後鼻漏」を起こしやすいです。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎(ちくのう症)があると、常に鼻水が喉を刺激し、慢性的に喉が赤い状態になることがあります。いびきをかいていたり、口を開けて寝ている「口呼吸」の癖があるお子さんも、喉が乾燥して赤くなりやすいです。しかし、熱はない喉の赤みでも、注意して観察すべき病気もあります。その代表が「溶連菌感染症」です。溶連菌という細菌による感染症で、喉の強い痛みと、舌がイチゴのようにブツブツになる「いちご舌」が特徴です。初期には熱が出ないこともありますが、放置すると高熱が出たり、リウマチ熱や急性糸球体腎炎といった重篤な合併症を引き起こしたりする可能性があるため、抗生物質による治療が絶対に必要です。また、「ヘルパンギーナ」や「手足口病」といった、いわゆる夏風邪も、発熱の前に、まず喉に特徴的な水ぶくれや発疹が現れることがあります。もし、お子さんの喉が赤いことに加えて、「喉を非常に痛がる」「よだれが多い」「食事や水分を摂りたがらない」「舌や唇、手足に発疹がある」「機嫌が極端に悪い」といった症状が見られる場合は、自己判断せず、速やかに「小児科」を受診してください。医師が喉の状態を詳しく診察し、必要な検査を行うことで、適切な診断と治療に繋がります。
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心療内科・精神科・神経内科、その違いと正しい選び方
自律神経の乱れや心の不調を感じた時、病院を探し始めて多くの人が混乱するのが、「心療内科」「精神科」「神経内科」という、似た名前の診療科の違いです。それぞれ専門領域が異なり、ご自身の症状に合った科を選ぶことが、適切な治療への第一歩となります。まず、「心療内科」が主に扱うのは、ストレスや心理的な要因が原因となって、体に様々な症状が現れる「心身症」です。例えば、ストレスで胃が痛くなる、緊張すると動悸がする、そして「自律神経失調症」によるめまいや倦怠感などが、まさにこの領域です。つまり、「心の不調」が「体の症状」として現れている場合に、心と体の両面からアプローチするのが心療内科です。カウンセリングや生活指導を重視しつつ、必要に応じて薬物療法も行います。次に、「精神科」が主に扱うのは、気分の落ち込み(うつ)、不安、幻覚、妄想、不眠といった、「心そのもの」の症状が中心となる病気です。代表的な疾患には、うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害などがあります。もちろん、これらの病気にも体の症状は伴いますが、治療の主眼は、あくまで心の症状を和らげることに置かれます。薬物療法が治療の中心となることが多いのも特徴です。そして、「神経内科」は、これら二つとは全く異なり、脳や脊髄、末梢神経、筋肉といった「神経システムそのもの」に物理的な異常が生じる病気を扱います。例えば、パーキンソン病、脳梗塞の後遺症、てんかん、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などが専門領域です。ろれつが回らない、手足が麻痺するといった症状がある場合は、まず神経内科で器質的な問題がないかを調べてもらう必要があります。結論として、「自律神経失調症」を疑う場合、最も適しているのは「心療内科」です。しかし、実際には心療内科と精神科が同じクリニック内で診療を行っていることも多く、精神科でも十分に対応してもらえます。大切なのは、「神経内科」は専門が違うということを理解し、心の問題が体に影響していると感じたら、心療内科か精神科の扉を叩くことです。
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私が自律神経失調症と診断されるまでの長い旅
今から思えば、私の体に異変が起き始めたのは、仕事のプレッシャーがピークに達していた三十歳の頃でした。最初は、朝起きられないほどの強烈な倦怠感。次に、満員電車に乗ると、理由もなく心臓がバクバクして、息が苦しくなる動悸。そして、頭が締め付けられるような頭痛と、常に船に揺られているような、ふわふわとしためまい。体は明らかに悲鳴を上げているのに、健康診断の結果はいつも「異常なし」。私は、自分の体がどうなってしまったのかわからず、深い霧の中を一人で彷徨っているような気分でした。最初に私が駆け込んだのは、循環器内科でした。動悸が一番つらかったからです。心電図、心エコー、ホルター心電図と、あらゆる検査をしましたが、結果は「心臓に全く異常はありません」。次に、めまいと頭痛を訴えて、脳神経外科へ。MRIを撮りましたが、これもまた「脳はきれいなものですよ」という言葉。安心するどころか、原因がわからないことで、私の不安はますます募っていきました。その後も、胃腸の不調で消化器内科へ、首こりや肩こりで整形外科へと、まるでスタンプラリーのように病院を渡り歩く「ドクターショッピング」が始まりました。どの医師も親身に話は聞いてくれるものの、検査結果に異常がないため、明確な診断はつきません。「ストレスでしょう」「気にしすぎでは」と言われ、私は自分が怠け者で、精神的に弱い人間なのだと、自分を責めるようになっていました。転機が訪れたのは、そんな生活が一年ほど続いた頃です。ある内科医が、私の話をじっくりと聞いた後、「あなたは、とても真面目で頑張り屋さんなんですね。でも、体は正直です。一度、心療内科で相談してみませんか」と、優しく言ってくれたのです。心療内科という言葉に抵抗がなかったわけではありません。でも、もう他に頼る場所はなかったのです。初めて訪れた心療内科で、私はこれまでの経緯とつらさを、涙ながらに話しました。医師は、ただ黙って、私の話を全て受け止めてくれました。そして、一通り話し終えた私に、「よく、ここまで頑張りましたね。あなたの症状は、自律神経失調症です。病気なんですよ。気のせいではありません」と、はっきり告げてくれたのです。その瞬間、私は、長くて暗いトンネルの先に、ようやく一筋の光が差したような気がしました。
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逆流性食道炎が招く、喉の赤みと違和感
熱はないのに、喉が慢性的に赤く、常にイガイガする。咳払いをしてもスッキリせず、声がかすれやすい。そんな症状に悩まされているなら、その原因は喉そのものではなく、実は「胃」にあるのかもしれません。近年、増加している「逆流性食道炎」は、こうした喉の不調の大きな原因の一つとして知られています。逆流性食道炎とは、胃の中で食物を消化するために分泌される強力な酸である「胃酸」が、食道へと逆流してしまう病気です。通常、胃と食道の間は、下部食道括約筋という筋肉によって、胃の内容物が逆流しないように固く閉ざされています。しかし、加齢や食生活の欧米化、肥満、ストレスなどによってこの筋肉の働きが弱まると、胃酸が食道へと漏れ出てしまうのです。食道の粘膜は、胃の粘膜と違って酸に対する防御機能が弱いため、逆流した胃酸によって炎症を起こし、びらん(ただれ)が生じます。これが、一般的に「胸やけ」や「呑酸(どんさん:酸っぱいものが上がってくる感じ)」として感じられる症状です。そして、この逆流がさらにひどくなると、胃酸は食道を通り越して、喉(咽頭・喉頭)まで達することがあります。喉の粘膜は、食道よりもさらにデリケートなため、強力な胃酸にさらされると、ひとたまりもありません。慢性的な炎症を起こし、常に赤く腫れた状態になってしまうのです。これが、「咽喉頭酸逆流症(いんこうとうさんぎゃくりゅうしょう)」とも呼ばれる状態で、熱はないのに喉が赤い、という症状の典型的な原因となります。この場合、喉の症状だけでなく、「長引く咳」「声がれ」「喉の詰まり感(ヒステリー球)」「飲み込みにくさ」といった、多彩な症状を伴うのが特徴です。特に、朝起きた時に症状が強い場合は、夜間に寝ている間に胃酸が逆流している可能性が高いと考えられます。もし、これらの症状に心当たりがある場合は、喉の治療だけをしても根本的な解決にはなりません。専門である「消化器内科」を受診し、胃酸の分泌を抑える薬による治療や、食生活の改善指導を受けることが、つらい喉の不調から解放されるための最も重要なアプローチとなります。
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内科で「異常なし」と言われたら、次の一歩
体の不調を感じて内科を受診し、血液検査やレントゲン、心電図など、一通りの検査を受けた。しかし、医師から返ってきた言葉は「特に異常は見当たりませんね」。危険な病気ではなかったことに安堵する一方で、「では、このつらい症状の原因は一体何なのだろう?」と、途方に暮れてしまう。これは、自律神経の不調に悩む多くの人が経験する、典型的なパターンです。この「異常なし」という言葉を、どう受け止め、次にどう行動すれば良いのでしょうか。まず、ここで理解しておくべきなのは、内科で行われる検査は、主に臓器の形や構造に異常がないか、あるいは血液の数値に明らかな異常値がないか、といった「器質的な疾患」を見つけ出すためのものだということです。しかし、自律神経失調症は、臓器そのものが壊れているわけではなく、その働きをコントロールする神経システムの「機能的な不調」です。例えるなら、パソコンのハードウェア(臓器)は壊れていないけれど、ソフトウェア(自律神経)にバグが生じているような状態。そのため、通常の検査では「異常なし」という結果が出てしまうのです。したがって、内科での「異常なし」は、決して「あなたの気のせい」や「怠け」という意味ではありません。むしろ、「命に関わるような、身体的な重篤な病気は隠れていない」という、非常に重要な情報を得られたと、前向きに捉えるべきなのです。これが、次のステップへ進むための、大きな安心材料となります。では、次の一歩は何か。それは、症状の原因を「機能的な不調」、つまり自律神経の乱れや、心理的なストレスの可能性にシフトして考えることです。そして、その専門家こそが「心療内科」なのです。内科で器質的な問題が否定された今こそ、心と体の繋がりを専門とする心療内科を受診する絶好のタイミングです。内科医に、これまでの経緯を話し、心療内科への紹介状を書いてもらうのも良いでしょう。ドクターショッピングを繰り返して疲弊する前に、「異常なし」をゴールではなく、新たなスタートラインと捉え、勇気を出して次の一歩を踏み出してみてください。
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熱はないのに喉が痛い、赤い、これって大丈夫?
喉が赤く、ヒリヒリ、チクチクと痛む。でも、熱を測ってみても平熱。このような「熱はないのに痛い」という状態は、体が本格的な不調に陥る一歩手前の、重要な警告サインかもしれません。多くは心配のない一過性のものですが、その原因を理解し、適切に対処することが、悪化を防ぐ鍵となります。発熱を伴わない喉の痛みの最も一般的な原因は、ごく軽い「ウイルス感染」です。風邪のウイルスが喉の粘膜に付着し、炎症を起こし始めたばかりの段階です。この時点では、体の免疫システムがまだ本格的な戦闘モード(発熱など)に入っておらず、局所的な防御反応として痛みや赤みが現れています。この初期段階で、うがいを徹底したり、十分な睡眠をとったりすることで、ウイルスを撃退し、本格的な風邪への移行を防げる可能性があります。また、「乾燥」も大きな原因の一つです。冬場の乾燥した空気や、夏の冷房が効いた室内では、喉の粘膜が乾き、潤いを失ってしまいます。粘膜のバリア機能が低下すると、些細な刺激にも過敏になり、痛みを感じやすくなります。マスクを着用して喉の湿度を保ったり、こまめに水分補給をしたりすることが有効です。喉の「使いすぎ」による炎症も考えられます。カラオケやスポーツ観戦で大声を出した後や、長時間話し続けた後などに、声帯だけでなく喉全体の粘膜が炎症を起こし、痛みとして感じられます。この場合は、とにかく声を出さずに喉を休ませることが一番の薬です。しかし、注意が必要なケースもあります。もし、喉の痛みが数日経っても改善しない、あるいは徐々に悪化していく場合は、単なる初期の風邪ではないかもしれません。例えば、細菌感染による「扁桃炎」は、初期には熱が出ないこともありますが、放置すると高熱が出たり、扁桃の周りに膿がたまる重篤な状態に移行したりすることがあります。また、逆流性食道炎による慢性的な刺激や、稀ではありますが咽頭がんなどの初期症状として、痛みが続くこともあります。熱がないからと安易に考えず、痛みが続く、あるいは強くなる場合は、必ず耳鼻咽喉科などの専門医の診察を受けてください。
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喉の赤みが続く時に試したいセルフケアと受診の目安
熱はないけれど、喉の赤みやイガイガ感がなかなか治まらない。そんな時、病院へ行くほどではないかもしれない、と様子を見ている方も多いでしょう。確かに、多くの場合は生活習慣の見直しやセルフケアで改善が期待できます。しかし、その見極めと、正しいケアの方法を知っておくことが大切です。まず、今日からすぐに始められるセルフケアの基本は、「加湿」「保温」「栄養」の三本柱です。喉の粘膜にとって、乾燥は大敵です。加湿器を使ったり、マスクを着用したりして、喉の潤いを保ちましょう。特に就寝中は口呼吸になりやすく、喉が乾燥しがちなので、枕元に濡れタオルを干すだけでも効果があります。こまめな水分補給も忘れずに行い、粘膜を内側から潤しましょう。次に、体を冷やさないこと。体が冷えると血行が悪くなり、免疫力も低下します。首元をスカーフなどで温めたり、温かい飲み物を飲んだりして、体を保温するよう心がけましょう。食事は、喉に刺激の少ない、消化の良いものを選びます。粘膜の修復を助けるビタミンA(緑黄色野菜など)やビタミンC(果物など)を意識して摂るのも良いでしょう。もちろん、禁煙や節酒は必須です。また、「うがい」も有効なセルフケアです。外出から帰った後など、水やお茶でうがいをするだけでも、喉に付着したウイルスやホコリを洗い流す効果があります。ただし、イソジンなどの殺菌成分が強いもので頻繁にうがいをすると、かえって喉の常在菌まで殺してしまい、粘膜を傷つけることもあるため、使いすぎには注意が必要です。これらのセルフケアを試しても、一週間以上、喉の赤みや違和感が改善しない場合は、医療機関を受診するタイミングです。また、「痛みが徐々に強くなる」「片側だけが特に痛い」「声がれがひどくなる」「飲み込みにくい感じがある」「血の混じった痰が出る」といった症状が現れた場合は、一週間を待たず、速やかに「耳鼻咽喉科」を受診してください。セルフケアで対応できる範囲には限界があります。その限界を見極め、必要な時には専門家の力を借りることが、深刻な病気を見逃さないために最も重要なことなのです。