ある五十代の男性が、突如として経験したことのない激しい頭痛と嘔吐を訴え、救急搬送されてきました。診断の結果は、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血でした。緊急手術が行われ、動脈瘤へのクリッピング術が無事に終了した後、男性は集中治療を行うためにNCUへと運ばれました。ここからがNCUにおける真の戦いの始まりです。くも膜下出血の術後管理において最も警戒すべきは、血管攣縮と呼ばれる現象です。手術後数日から二週間ほどの間に、脳の血管が異常に収縮し、脳梗塞を引き起こすリスクが高まる時期があります。NCUでは、この血管攣縮を防ぐために、循環動態を厳密に管理するトリプルエイチ療法と呼ばれる戦略が取られました。具体的には、血圧を高めに維持し、血液を薄め、循環血液量を増やすことで、細くなった血管に無理やり血液を流し込むという手法です。この管理には、心臓や肺への負担も伴うため、心拍出量モニターや肺の状態をチェックする高度な監視が必要となります。さらに、脳圧が上昇して脳へのダメージが拡大しないよう、持続的に脳室ドレナージの管理が行われました。ドレーンから流出する脳脊髄液の色や量を数時間おきにチェックし、感染の兆候がないかを確認します。NCUのチームは、看護師が数時間おきに神経学的な評価を行い、意識レベルのわずかな低下や言語の不明瞭さ、手足の力の入り具合に細心の注意を払いました。ある夜、わずかに右手の力が弱まったことに看護師が気づき、即座に医師へ報告されました。血管造影検査が行われ、攣縮が起きている部位に直接薬剤を注入する処置が行われた結果、脳梗塞の発症を未然に防ぐことができました。このように、NCUでの緻密なモニタリングと多職種による迅速な連携が、患者さんの予後を決定づけます。数週間のNCU管理を経て、男性は無事に一般病棟へと移り、その後リハビリテーション病院への転院を果たしました。この事例は、NCUという場所が、単に手術後の休息場所ではなく、能動的に合併症を防ぎ、命を繋ぎ止めるための高度な戦略室であることを物語っています。
くも膜下出血患者のNCUにおける治療管理事例