長引く咳で病院へ行く時間がない時、多くの人がまず頼りにするのが市販薬です。しかし、薬局の棚には様々な種類の咳止め薬が並んでおり、どれを選べば良いのか迷ってしまうことも多いでしょう。誤った薬を選ぶと、効果がないばかりか、症状を悪化させてしまう可能性もあります。市販薬を賢く選ぶためのポイントと、その注意点を理解しておきましょう。まず、咳には、痰の絡まない「乾性咳嗽(かんせいがいそう)」と、痰が絡む「湿性咳嗽(しっせいがいそう)」の二種類があり、それぞれ適した薬の成分が異なります。乾いた「コンコン」という咳が続く場合は、咳そのものを中枢から鎮める「鎮咳成分(ちんがいせいぶん)」が配合された薬が適しています。デキストロメトルファンや、リン酸コデイン(指定第2類医薬品)などがこれにあたります。咳の発作がひどく、夜も眠れないといった場合に有効です。一方、痰が絡む「ゴホゴホ」という湿った咳の場合は、無理に咳を止めてしまうと、気道に溜まった痰を排出できず、かえって症状を悪化させる原因になります。この場合は、痰を出しやすくすることを目的とした「去痰成分(きょたんせいぶん)」が配合された薬を選ぶべきです。カルボシステインやアンブロキソールなどが代表的な成分で、これらは痰の粘り気を下げて、排出しやすくする働きがあります。このように、自分の咳のタイプを見極めて、それに合った成分の薬を選ぶことが第一のポイントです。しかし、市販薬を使用する上で、最も重要な注意点があります。それは、「市販薬は、あくまで一時的な症状緩和のためのもの」と心に留めておくことです。市販薬を五日から一週間ほど服用しても、症状が全く改善しない、あるいは悪化するような場合は、その咳の原因が、市販薬では対応できない病気である可能性が高いです。例えば、咳喘息や気管支喘息、肺炎、あるいは鼻の病気など、専門的な診断と治療が必要なケースです。その場合は、速やかに市販薬の使用を中止し、必ず医療機関を受診してください。自己判断で市販薬をだらだらと飲み続けることが、根本的な病気の発見を遅らせ、重症化を招く最も大きなリスクとなるのです。