起立性調節障害(OD)は、小学生高学年から高校生にかけての「思春期」に発症のピークを迎えます。なぜ、この特定の時期に、子供たちは朝起きられなくなってしまうのでしょうか。その背景には、この時期特有の、急激な身体的成長と、それをコントロールする自律神経の発達との間に生じる「アンバランス」が、深く関わっています。思春期は、第二次性徴によって、身長が一年で十センチ以上も伸びるなど、体が爆発的に成長する時期です。骨格や筋肉が急速に大きくなる一方で、心臓や血管、そして体の機能を自動的に調整する自律神経系の発達は、それよりも少し遅れて、ゆっくりと成熟していきます。この「体の器」の急成長に、「中身のシステム(自律神経)」の発達が追いつかない、というギャップが生じてしまうのです。具体的には、何が起こるのでしょうか。私たちが、寝ている状態から立ち上がると、重力によって血液は下半身に移動しようとします。健康な人であれば、自律神経(交感神経)が瞬時に働き、下半身の血管を収縮させて、血液が下がるのを防ぎ、心臓のポンプ機能を強めて、脳へと十分な血液を送り続けます。しかし、ODの子供たちは、この自律神経のスイッチがうまく機能しません。立ち上がっても、下半身の血管が十分に収縮せず、脳への血流が一時的に低下してしまうのです。その結果、脳が酸欠状態となり、立ちくらみやめまい、頭痛、倦怠感といった、様々な症状が引き起こされます。特に、睡眠中は副交感神経が優位なリラックスモードになっているため、朝、目覚めて起き上がるタイミングで、活動モードの交感神経へとスムーズに切り替えることが最も苦手です。これが、朝に症状が集中し、午後になると回復してくる理由です。また、思春期は、受験や友人関係、親子関係など、精神的なストレスが非常に大きい時期でもあります。ストレスは、自律神経のバランスを直接的に乱す大きな要因となるため、身体的なアンバランスに心理的なストレスが加わることで、症状が発症・悪化しやすくなるのです。つまり、ODは、急激な成長という嵐の中を航海する、思春期の体が発する、仕方のない悲鳴とも言えるのです。