妊娠中のリフレッシュとして、温泉や銭湯にゆっくり浸かりたい、と考える方も多いでしょう。では、プールと温泉・銭湯では、感染症のリスクに違いはあるのでしょうか。衛生管理の観点から、その違いを理解しておきましょう。まず、日本の公衆浴場(温泉、銭湯)やプールは、それぞれ「公衆浴場法」および「学校保健安全法」などに基づいて、水質や衛生管理に関する厳しい基準が定められています。どちらの施設も、衛生的な環境が保たれるよう、水中の塩素濃度や、大腸菌群などの細菌検査が定期的に行われています。したがって、適切に管理されている施設であれば、水そのものから重篤な感染症にかかるリスクは、プールでも温泉でも、極めて低いと言えます。しかし、両者にはいくつかの違いがあります。まず、「塩素濃度」です。プールは、不特定多数の人が利用し、水中で運動することから、感染症予防のために、比較的高い濃度の塩素で消毒されています(遊離残留塩素濃度0.4mg/L以上)。一方、温泉は、その泉質(効能)を保つため、循環式の場合でも塩素消毒の基準はプールより緩やかであったり、源泉かけ流しの場合には塩素消毒が行われなかったりすることもあります。このため、一部の細菌に対する殺菌力は、プールの方が高いと言えるかもしれません。次に注意すべきなのが「レジオネラ菌」のリスクです。レジオネラ菌は、循環式の浴槽や、ジャグジー、打たせ湯などの、エアロゾル(水の霧)が発生しやすい環境で繁殖しやすく、それを吸い込むことで「レジオネラ肺炎」という重篤な肺炎を引き起こすことがあります。妊婦は免疫力が変化しているため、一般の人よりも注意が必要です。衛生管理が徹底されている施設を選ぶことが大前提となります。一方で、プールで注意が必要なアデノウイルスなどによる「プール熱」は、温泉や銭湯ではあまり問題になりません。結論として、プールも温泉・銭湯も、衛生管理された施設を適切に利用する限り、大きなリスクはありません。しかし、カンジダ膣炎の悪化を招きやすい塩素刺激や、レジオネラ菌のリスクなど、それぞれに特有の注意点が存在します。どちらを利用する場合でも、長時間の利用は避け、体調が良い時に限定し、必ず事前にかかりつけ医の許可を得ること。これが、妊娠中の入浴・遊泳における、最も重要な共通ルールです。