起立性調節障害(OD)は、自律神経という「体の問題」と、学校や友人関係のストレスといった「心の問題」が、鶏と卵のように複雑に絡み合って発症・悪化することが多い病気です。そのため、治療にあたっては、体の側面と心の側面、両方からのアプローチが不可欠となり、どの診療科を選ぶべきか、保護者の方は深く悩むことでしょう。「小児科」「心療内科」「精神科」、それぞれの役割の違いを理解し、お子さんの状態に合った科を選ぶことが大切です。まず、第一選択となるのは、やはり「小児科」です。特に、思春期の心身症に詳しい小児科医は、ODの診断と身体的な治療の専門家です。新起立試験による診断、血圧を上げる薬や漢方薬の処方、そして日常生活指導といった、身体面からのアプローチを行います。また、学校との連携(診断書の作成や、体育の見学、遅刻への配慮のお願いなど)についても、積極的にサポートしてくれます。まずは小児科で、身体的な基盤を整えることが治療のスタートラインです。次に、「心療内科」です。心療内科は、ストレスなどの心理的な要因が、体の症状として現れる「心身症」を専門とします。ODはまさに心身症の代表格です。身体的な治療だけでは改善が見られない場合や、不登校や不安感が強い場合に、心療内科の受診が勧められます。心療内科では、カウンセリングを通じて、お子さんが抱えているストレスの原因を探り、それに対処する方法(ストレスコーピング)を一緒に考えてくれます。必要に応じて、不安を和らげる薬が処方されることもあります。そして、「精神科(児童精神科)」です。精神科は、うつ病や不安障害といった、心の症状そのものが主となる病気を専門とします。もし、ODの症状に加えて、「死にたい」といった気持ちを口にする、自傷行為がある、幻覚や妄想が見られるといった、より深刻な精神症状が伴う場合は、精神科での専門的な治療が必要となります。実際には、これらの科の境界は曖昧で、小児科医がカウンセリングマインドを持って接してくれたり、心療内科と精神科が同じクリニック内で診療していたりすることも多いです。大切なのは、一つの科に固執せず、小児科をベースキャンプとしながら、必要に応じて他の専門家の力も借りていく、というチームアプローチの視点を持つことです。