子供の舌が、まるでイチゴのように赤くブツブツになっている。この「いちご舌」と呼ばれる特徴的な症状に気づいた時、多くの親御さんがまず思い浮かべるのが「溶連菌感染症」でしょう。確かに、いちご舌は溶連菌感染症の代表的なサインの一つです。しかし、実はこの症状を引き起こす病気は、溶連菌以外にもいくつか存在します。安易に「どうせ溶連菌だろう」と自己判断してしまうと、適切な治療の機会を逃してしまう可能性もあるのです。溶連菌感染症以外で、いちご舌が見られる代表的な病気が「川崎病」です。川崎病は、主に四歳以下の乳幼児に発症する、全身の血管に炎症が起きる原因不明の病気です。いちご舌に加えて、「五日以上続く高熱」「両目の充血」「唇が赤く腫れて切れる」「手足の腫れと、回復期に見られる指先の皮むけ」「BCG接種痕の発赤」「首のリンパ節の腫れ」といった、六つの主要な症状のうち、五つ以上を満たすと診断されます。川崎病は、心臓に血液を送る冠動脈に炎症が及ぶと、心筋梗塞や動脈瘤といった深刻な後遺症を残すことがあるため、早期に診断し、免疫グロブリン大量療法などの専門的な治療を開始することが極めて重要です。また、稀ではありますが、「猩紅熱(しょうこうねつ)」でも、いちご舌が見られます。猩紅熱は、毒素を産生する特殊な溶連菌によって引き起こされる病気で、発熱や喉の痛みに加え、全身に細かい赤い発疹が広がるのが特徴です。これも抗生物質による治療が必要です。さらに、ビタミンB群の欠乏や、非常に稀なケースとして、毒素性ショック症候群(TSS)などでも、舌に同様の変化が見られることがあります。このように、いちご舌は、見慣れた症状でありながら、その背後には様々な病気の可能性が隠れています。特に、高熱が長く続く、あるいは他の全身症状を伴う場合は、単なる溶連菌感染症ではない可能性を常に念頭に置き、速やかに小児科を受診して、専門家による正確な診断を仰ぐことが何よりも大切なのです。