気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、てんかん、発達障害、あるいは先天性の心疾患や腎疾患。子供の頃に発症し、物心ついた時からずっと小児科の専門医と共に歩んできた、慢性疾患を持つ高校生たち。彼らにとって、「小児科を卒業し、内科へ移行する」という問題は、単なる病院の変更ではなく、人生の大きな転換点であり、時に大きな不安を伴うものです。こうした子供たちの医療を、小児期から成人期へ、途切れることなくスムーズに引き継いでいくための取り組みを、「移行期医療(トランション)」と呼びます。そして、この成功の鍵を握るのが、「小児科医」と「成人診療科の医師」との密接な連携です。小児科医は、その子の病気が、成長や発達にどのような影響を与えてきたか、そして、本人の性格や家族のサポート体制まで含めて、長年にわたる全ての情報を把握しています。一方、成人診療科の医師(内科医、循環器内科医など)は、加齢に伴う合併症や、妊娠・出産、就労といった、成人期特有の問題に対応する専門家です。この二つの専門性が、うまくバトンタッチされなければ、患者さんは適切な医療を受けられなくなってしまう危険性があります。例えば、小児喘息の患者さんが、自己判断で突然内科に移った場合、新しい医師は、これまでの発作の頻度や、有効だった薬の種類などを一から把握しなければならず、最適な治療を提供するまでに時間がかかってしまうかもしれません。理想的な移行期医療では、まず、小児科の主治医が、患者さんが高校生くらいになった段階で、本人と家族に、成人医療への移行の必要性について説明を始めます。そして、患者さんの病状や居住地などを考慮して、最適な引き継ぎ先となる成人診療科の医師を探し、紹介します。その際には、これまでの詳細な治療経過をまとめた「診療情報提供書(紹介状)」を作成し、両科の医師が情報を共有します。場合によっては、しばらくの間、小児科と成人診療科の両方を並行して受診する期間を設けることもあります。持病を持つ高校生にとって、かかりつけの小児科医は、単なる医師ではなく、成長を見守ってくれた人生の伴走者のような存在です。その伴走者とよく相談しながら、焦らず、計画的に、次のステージへと進んでいくことが何よりも大切なのです。