五十歳を過ぎた頃から、なんとなく感じていた膝の違和感。それが、明確な「痛み」に変わったのは、ある朝、駅の階段を駆け下りようとした時でした。右膝の内側に、ズキンと電気が走るような鋭い痛みが走り、思わず手すりに掴まってしまいました。それ以来、立ち上がる時、歩き始める時、そして階段の上り下りといった、何気ない動作のたびに、膝の痛みが私を悩ませるようになりました。最初は、「年のせいだろう」「少し休めば治るだろう」と、ドラッグストアで買った湿布を貼ってごまかしていました。しかし、痛みは一向に改善せず、むしろ、膝が少し腫れて、正座ができないほど曲げにくくなっていることに気づきました。このままではいけない。そう思い、私は意を決して、近所の整形外科クリニックの扉を叩きました。診察室に入ると、医師は私の話をじっくりと聞き、膝を色々な方向に動かしたり、押したりして、痛みの場所や可動域を丁寧に確認しました。そして、「レントゲンを撮ってみましょう」ということになりました。レントゲン室で数枚の写真を撮り、再び診察室へ。医師は、モニターに映し出された私の膝のレントゲン写真を見せながら、こう説明しました。「膝の内側の、骨と骨の間の隙間が、少し狭くなっているのがわかりますか。これは、クッションの役割をしている軟骨がすり減ってきているサインです。典型的な『変形性膝関節症』の初期段階ですね」。初めて聞く病名に、私はショックを受けました。もう、元のように歩けなくなるのではないか。そんな不安が頭をよぎりました。しかし、医師は穏やかな口調で続けました。「大丈夫ですよ。初期の段階ですから、今からきちんと治療とセルフケアを始めれば、進行を遅らせ、痛みなく生活することは十分可能です」。その日、私は炎症を抑えるための湿布と、痛みが強い時のための飲み薬を処方されました。そして、治療の柱となる「ヒアルロン酸の関節内注射」を初めて受けました。さらに、理学療法士さんからは、膝周りの筋力を鍛えるための簡単な運動や、日常生活での注意点について、丁寧な指導を受けました。病名がわかり、治療方針が示されたことで、私の漠然とした不安は、「これから頑張ろう」という前向きな気持ちに変わっていきました。あの日、勇気を出して病院へ行って、本当によかったと思っています。